IR・SR支援におけるよくあるご質問

※当HPは上場企業様を対象とするため、株主様といわず、株主と表記します。
※(初級)など、()内は質問のレベルを表しています。図表は、代表弁護士の論文(「上場企業と株主・投資家との対話の実態と規制への法的視座(1)(2)(3)-株主・投資家との対話に関する上場企業アンケート調査からの考察-」等から作成した資料の一部です。顧問先企業様には、資料の完全版を用いて、IRSR支援の概要を説明させていただきます。

Q1: 急にIR部に配属になったんですが、何をどうすればよいでしょうか(初級)?

A:このHPをご覧の方が、IR部に急に配属された場合、まずは基本的な準備と理解が重要です。IR(インベスターリレーションズ)部門は、投資家や株主との重要なコミュニケーションを担う役割を果たすため、以下のステップを順に進めることが効果的です。

1:現状の把握

最初に、これまでの貴社のIR活動の履歴や現在の株主構成、株主から寄せられている意見をご確認ください。これには、決算説明会の資料、貴社のIR方針、過去の対応内容なども含まれます。これらの情報を把握することで、企業が株主にどのようなメッセージを伝えているのかを理解でき、今後の対応に役立てることができます。

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2:基本スケジュールの理解

次次に、四半期ごとの決算短信(四半期決算開示は24年4月から廃止になりました)や決算説明会、貴社の定例会議など、IR活動に関わる主要なスケジュールを把握しましょう。特に、決算短信や年次決算報告書の発表は投資家にとって重要な情報提供の場であるため、これらの準備をしっかり行う必要があります。定期的なIR活動の日程を理解し、事前に計画を立てて対応することが大切です。

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3:株主対応の基本

IR部門は、株主や投資家からの問い合わせに対する対応が主な業務の一つです。株主からの質問に対しては、正確かつ迅速に対応することが求められます。また、投資家やアナリストとの面談に備えて、最新の業績や戦略、財務状況を分かりやすく伝えるための資料を準備しておくことも重要です。これにより、投資家との信頼関係を築くことができます。

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4:必要なスキルの向上

IR活動では、基本的なファイナンス知識や株主との対話で使用する専門用語、法律の理解が欠かせません。特に、金融商品取引法や会社法の基礎知識を学び、適切な対応ができるようにしておくと、投資家との対話や報告書作成がスムーズに進みます。これらのスキルを高めることで、効果的なIR活動をサポートできるようになります。

Q2: IRというのは、何を目的として仕事をすればよいでしょうか。機関投資家と何を協議すればよいでしょうか?(初級)

A:業務の目的と内容は主に下記となります。

目的

貴社の企業価値向上のために、株主や投資家に自社の成長ビジョンや戦略を理解してもらい、信頼を得ることです。株主との面談も重要な仕事です。

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機関投資家との協議内容

機関投資家(セルサイド・バイサイド)の方々とは、以下のことについて協議しておくとよいでしょう。いろいろ要望が出ますから、記録に残すことも必要です。

  • 貴社の財務状況、成長戦略、経営目標の説明
  • コーポレートガバナンスに関連する問題
  • 資本効率や配当方針、自社株買、株主還元の方針
  • 環境・社会・ガバナンス(ESG)投資に関する対応や戦略などです。
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Q3: 自称株主から、急に「当社IR部と会いたい」と連絡が来ましたが、会うべきでしょうか?(中級)

A:以下の点をまず、注意深く確認すべきです。

1:株主確認

まず、相手が実際に株主かどうかを確認するべきです。保有株数や基準日株主かどうかもチェックしてください。実際には信託銀行などに有償で実質株主調査をする必要があり、時間と費用がかかりますが、必要な情報です。

2:目的の確認

なぜ貴社IR部に会いたいのか、どのような問題や提案があるのかを事前に確認した方がよいでしょう。できれば、電話などで株主の法人名と所在地・連絡先を聞いて、その情報をできる限り集めておいて頂ければお役に立つことがあります。

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3:必要な準備

上記の通り、申入れをされた株主の情報を集め、さらに提案があればそれを分析しておくことが望ましいでしょう。その際適切な情報や資料を用意し、IR部門や法務部と協議の上、面談に応じるか担当役員と協議しておくことが望ましいです。

4:リスク管理

株主との面談中の発言が、貴社だけでなく、他の株主全体に影響を与える可能性があるため、慎重な対応を心がける。予め録音等を用意しておくことも必要かもしれません。

上記の4点を全て確認したうえで、貴社の複数の担当者とともに申入れ株主と会いましょう。また、上記の内容をきちんと記録しておきましょう。

Q4: 複数の株主から自社株買いの提案があり、どうも密かに当社の株式を買い占めているような雰囲気ですが、どのように対応するべきでしょうか(上級)?

A:正直状況は緊迫していると思います。貴社の主な対応としては以下の通りです。これは、業界用語で、ウルフパック(群浪作戦)という状況かも知れません。

1:企業財務の確認

まずは、貴社の財務部と自社株買いが企業の財務に与える影響を慎重に検討することが必要です。特に、内部留保や将来の投資計画とのバランスを考慮し、自社株買いが財務健全性を損なわないかを確認する方がよいでしょう。

2:株主構成の把握

まずは貴社の株式保有状況をご確認ください。特定の株主からの面談要請に応じる場合、他の株主に与える影響も考慮することが重要です。全体の株主構成を把握し、面談要請があるのは、どの株主とどの株主か、特定の株主に対する対応が他株主に不利益をもたらさないよう注意します。

3:対話の強化

株主とのエンゲージメントを通じて、貴社の資本戦略や株主還元方針を丁寧に説明し、納得を得ることが重要です。特に、増配や自社株買いに関する貴社の方針、他の資本戦略がどのように企業価値向上につながるかを具体的に伝えることが求められます。

4:取締役会での議論

もし株主提案が正式に提出された場合、取締役会で十分な議論を行い、対応方針を決定します。取締役会としての対応方針を明確にし、株主への説明責任を果たすことが重要です。特に役員の選任、解任の株主提案の場合、相当な対応が必要となります。この場合には、委任状勧誘戦(株主総会で議案の裁決をする)となります。必要に応じ、アドバイザーを雇う必要があります。

もし、複数の株主が同様の申入れを行い、さらに株主間で情報共有がなされているとすると、ウルフパックが作られている可能性が大きいので、すぐに対応が必要です。ご相談ください。

Q5: 株主からの面談要請や自社株買い、増配の要望を無視しているとどうなりますか(上級)?

A:貴社が株主からの面談要請や自社株買い、増配の要望を無視することには、下記のような深刻なリスクが伴います。これらのリスクを理解し、適切に対応することが、企業価値を守り、株主との信頼関係を維持するために重要です。

リスク1:企業価値への影響

株主からの提案や要望を無視すると、企業価値に悪影響を与える可能性があります。特に、自社株買いや増配といった株主還元に関する要望を無視することは、投資家からの評価を下げ、結果として株価が下落するリスクが高まります。

株主は企業の資本効率や株主還元に敏感であり、これに対する対応が不十分だと、企業への信頼が低下し、資本市場での評価も下がる可能性があります。

リスク2:株主からの不信感

株主との対話や要望を無視することは、株主や投資家との信頼関係を損なう可能性があります。

特に、長期投資をしている機関投資家やアクティビスト株主は、企業との対話を重視しており、これを拒否することは敵対的な行動を招く可能性があります。例えば、株主提案の提出や委任状勧誘戦の発展など、企業にとって予期せぬリスクが高まるでしょう。

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エンゲージメント(株主との対話)を無視することは、株主の不満を蓄積させ、企業経営に対する強い反発を生む可能性があります。最終的に、役員の選任議案に反対票が集まることになります。最近は、敵対的買収は、同意なき買収と呼ばれ、これまでのような抵抗が薄れています。株主側から同意なき公開買付が開始されると、最終的には価格が高い買収者に株が売られてしまうことがあり得ます。

リスク3:取締役会への影響

株主提案や要望を無視することは、取締役会の責任問題として扱われるリスクもあります。株主は取締役に対して、経営の説明責任を求めます。

もし株主提案を無視して、その結果として株主からの信頼が失われたり、株価が下落した場合、取締役会の意思決定が問題視されることになります。その結果訴訟リスクも増加します。

取締役会としては、こうしたリスクを避けるために、株主提案に対して早期の対応と適切な説明を行うことが求められます。

Q6: 株主から指摘されないガバナンス体制を作るにはどうしたらよいでしょうか?(上級)

A:株主の要望には、貴社のガバナンス体制に関するものもあります。以下の点は最低限守る必要があります。

コーポレートガバナンス・コードの遵守

まず、コーポレートガバナンス・コードに基づき、企業ガバナンスを強化する具体的な方針を策定し、その実行を徹底します。取締役会の独立性や役員の構成、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する企業の取り組みなどを明確にし、透明性のある経営を推進することが重要です。これにより、株主からの信頼を得ると同時に、企業価値の向上にも繋がります。

内部監査体制の強化

企業内のコンプライアンス体制や内部監査機能を強化し、リスク管理や不正防止に努めることが不可欠です。内部監査の強化によって、ガバナンス体制の透明性が高まり、株主や投資家からの指摘を回避することができます。特に、定期的な監査と報告が、株主の信頼を保つために効果的です。

株主との対話の強化

株主との定期的な対話を通じて、ガバナンスに対するフィードバックを得ることが重要です。企業のガバナンス体制について説明し、改善点がある場合には積極的に取り組むことで、株主からの指摘や不信感を未然に防ぐことができます。株主の意見を尊重し、対話を通じて企業経営に反映させる姿勢が大切です。

個別対応は当事務所にご相談ください。

Q7: 株主から支持される資本政策はどのようなものでしょうか?(中級)

A:資本政策はあまり弁護士にはなじみがありませんが、重要なポイントです。
詳しくは下記をご確認ください。

配当方針の見直し

多くの株主は、安定的で持続可能な配当を期待しており、場合によっては配当性向(企業の利益に対する配当の割合)の引き上げを求められることがあります。企業の財務状況を踏まえた上で、配当政策を見直し、株主への還元を強化することで、株主の支持を得ることができます。いざというときのために内部留保(利益剰余金等)を十分に確保することは、株主の反感を買う傾向にあります。当事務所では、増配の株主提案について、助言をした事案があります。

自社株買い

資本効率の向上や株主還元の一環として、株価が低迷している場合に株主から自社株買いを要請されることがあります。自社株買いは、企業が市場で自社の株式を買い戻すことで、株価を支えたり、株主価値を高める手段です。適切なタイミングでの自社株買いは、企業価値を向上させ、株主にとっても有利な選択となります。

資本コストの最適化

ROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)を意識した資本効率の最大化が、株主からしばしば要望される資本政策の一つです。資本コストを最適化し、投資家に対して企業の財務状況や成長戦略がしっかりと伝わるよう、戦略的に資本政策を展開することが求められます。

上記のような資本政策は多くの機関投資家も要望するところです。自社の体制や資本政策と摺り合わせて検討することが必要です。
総合的な対策は当事務所にご相談ください。

Q8: 国内機関投資家とどのような面談スケジュールで会えばよいでしょうか? アナリストはいかがでしょうか?(中級)

A:望ましい面談時期は、主に下記となります。

四半期ごとの面談

国内機関投資家やアナリストとの面談は、一般的に四半期短信の直後に実施されることが多いです。四半期ごとの業績発表後、企業の経営状況や戦略について説明し、投資家やアナリストからの質問に対して丁寧に回答することが重要です。これにより、投資家との信頼関係を深めることができます。

定期的なフォローアップ

機関投資家との関係を強化するために、定期的なフォローアップを行うことが大切です。中長期的なビジョンや成長戦略について投資家と共有し、企業の取り組みや成果を報告する場を設けることで、投資家の理解と支持を得ることができます。

アナリストとの個別面談

アナリストとは、企業の新たな事業戦略や市場動向について個別に面談することが効果的です。これにより、アナリストが作成するレポートに企業の強みや成長ポテンシャルを反映させ、投資家への信頼性を高めることができます。アナリストとの積極的なコミュニケーションは、企業の評価向上に繋がります。

上記面談の成果をどのように活かすかは、個別にご相談ください。

Q9: 株主対策はどのように進めればよいでしょうか?(中級-上級)

A:これは奥が深い質問です。
当事務所が考える対策方法は、下記をご確認ください。

エンゲージメントの強化

まず、株主との対話(エンゲージメント)を積極的に行い、株主の意見や要望を把握し、それを企業経営に反映させることが重要です。特に、機関投資家やアクティビスト株主との定期的な対話を通じて、企業の戦略や方針に対する理解を深めてもらうことが、株主対策において効果的です。

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ガバナンスの透明化

企業ガバナンスを強化し、透明性を高めることで、株主からの信頼を得ることができます。取締役会の独立性や内部監査体制の強化など、ガバナンスに関する情報をタイムリーかつ正確に開示することが、株主からの支持を得るために不可欠です。

防衛策の検討

株主提案や同意なき買収に備えて、企業の取締役会で防衛策を検討し、必要に応じて導入することが重要ですが、近年買収防衛策を実施する企業の株価は低迷する傾向があります。常日頃から株主提案や同意なき買収に備えることが必要です。ただ、株主が仮に高値買取(グリーンメール)等を提案した場合には、十分に検討の上、対応策を実施するべきでしょう。

なお最近は事業会社が同意なき買収を行い、成功させる事例もありますので、注意が必要です。当事務所がご提案するのは、常に株主と対話し、PBRを改善し、株主目線の資本政策を推進することです。

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タイムリーな情報開示

決算説明会や株主総会における情報開示を迅速かつ的確に行い、株主に対して企業の現状や将来のビジョンを明確に伝えることが大切です。株主との信頼関係を維持し、企業価値を高めるためには、常に透明性を持って情報を開示することが求められます。

上記の解答は一般的な解答です。個別事情の検討が不可欠ですので、是非当事務所にご相談ください。

以上ご覧になってお分かりの通り、株式持合が解消されるにつれ、上場企業はこれまでの株主対応では、いろいろな問題に対応できません。株主総会対応だけ、専門家に依頼するのではなく、常日頃から、企業価値を高め、資本政策を適切に実行することが不可欠です。株主との主戦場は、株主総会だけでなく、IRの現場に移っています。

当事務所は、株主対応ご担当者の要望を聞き、企業価値を上げるための株主対応を支援しています。

Q10: 有事対応はどうしたらよいでしょうか(番外編)

A: アクティビスト対応において、事前に対応策を講じておくことが基本ですが、以下のような厳しい状況に直面した場合、方向性としては以下のような対応を取ることが重要です。

Q10−1:アクティビストとの交渉が突然打ち切られ、役員解任と役員選任の株主提案が提出された場合

このような状況は、委任状勧誘戦(プロキシーファイト)の一環として発生します。通常、定時または臨時株主総会に向けて、議決権を有する株主に対し、議決権行使の依頼をする必要があります。過半数の支持を得られれば、株主提案は否決され、会社提案が可決されます。
急な状況に対応するためには、常日頃からの機関投資家との関係構築が非常に重要です。特に、有事の際には弁護士、信託銀行(株主名簿管理人)、プロキシーアドバイザーに相談して、適法に勧誘を行うことが求められます。

Q10−2: アクティビストがホワイトペーパーを発表し、複数のファンドが市場で密かに株式を買い集めているとみられる場合

これは市場で株価が急上昇する「市場買い上がり」の典型的なケースです。この状況が発生すると、非常に切迫した対応が求められます。対応策は、アクティビストが株式の買い取りを目的としているのか、それとも会社の支配権取得を目的としているのかにより異なります。

近年は、新株予約権を用いた買収防衛策が有効な手段とされていますが、これには株主総会での承認が必要です(MOM決議)。ただし、複数の株主が関与しているウルフパックのような状況では、最高裁判所がこの決議を無効とした事例(三ツ星事件)もあり、注意が必要です。

Q10−3: 事業会社であるA社が当社(X社)に対し公開買付を行い、B社がより高い価格で対抗TOBを提案した場合

このケースは、「レブロン義務」が問われる状況です。会社が売却状態にある場合、より高い買付価格を提示した買収者に売却する義務が発生する可能性があります。実際の事例では、会社経営陣がB社の対抗TOBに賛同し、最終的に会社はB社の傘下に入りました。このような状況では、経営陣の対応が厳密に監視され、適切な意思決定が求められます。

当法人の提案

有事対応と平時の準備の重要性

有事の際の対応は非常に厳しいものとなる可能性が高く、成功が保証されないことも少なくありません。そのため、当事務所では、有事と平時の対応を完全に切り離すべきではないと考えています。

むしろ、平時のIR活動を通じて潜在的な株主の意向を把握し、機関投資家の支持を確保しておくことが非常に重要です。その上で、基準日株主が確定した後に、SR対応として委任状勧誘を進めるプロセスが最も効果的であると考えています。

具体的な事案については、当事務所までご相談ください。また、必要に応じて協力事務所と協業して対応に当たることも可能です。

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